PTA役員の負担軽減策として「役員報酬」の導入が議論されることがあります。私自身、役員手当ということで受領したことがあります。
しかし、私の本音で言えば、PTAにおいて報酬の支払いは避けるべきです。
この記事の対象者
- 役員のなり手不足解消として「報酬制」の導入を検討している方
- PTAが個人に謝礼や報酬を支払う際のリスクを知りたい方
- お金を配ることで生まれる弊害を知りたい方
この記事でわかる事
- 報酬の支払いが法律違反になりうる
- 報酬が発生することが、逆にボランティア精神をゆがめることがある
- より良い「報酬」のアイデアとは?

1. 税法上の問題:PTAの会計担当が源泉徴収する?!

あなたがアルバイトをしたことがあったり、会社員であったりすると、給料の 受領時に所得税が「源泉徴収」されていることを知っているでしょう。
厳密に言いますと、税法上、PTAが役員に報酬を支払う場合、PTA自身がこの源泉徴収義務者としての役割を担わなければなりません。
当然ですが「 知らなかった」は通じません。
PTAは「法人」と同じ扱いを受ける
PTAはその規模に関わらず、税法上は「人格のない社団等」とされ、法人とみなされます。会社や個人事業主と同じように、人を雇って給与を支払ったり、特定の業 務に対して報酬を支払ったりする場合には、その都度、約10%の源泉所得税を差し引いて、原則とし て翌月10日までに国に納める義務があります(小規模事業者は特例で半年に1度支払うことが多い)。
税法上、金額の基準はないので当然、PTAで役員に報酬を払うならば源泉徴収をする必要があります。
「たった500円もらうだけなのに源泉徴収?」と思う方もいるはずですが、税法上は、◯円以下の少額なら源泉徴収義務がない、という規定はありませんので「少額 だからなんの問題もない」という考えは正しくありません。
どこまでが「報酬」になるのか?
「だったら報酬という名目でなければ大丈夫だろう」と考える人もいますが、これも通用しませ ん。以下のケースはすべて源泉徴収の対象となり得ます。
謝礼・車代・調査費:
名目が何であれ、実態が原稿料や 講演料、業務への対価として支払うのであればすべて対象です。
商品券などの贈呈:
「現金がダメなら商品券で」という 案も出がちです。そうでなくても、なんとなく現金を渡すのは気が引けるので図書券やクオカードを渡している例は少なくないでしょう。私の小学校でも委員長には図書券、というのが毎年の運用です。
でも実は、これらも現金同等物として課税対象になります。税理論上の話で言うと、受け取った側は 「お礼に商品券をもらったのに、税金は現金で払わなければならない」という最悪の パターンに陥ります。
旅費・宿泊費:
実費での精算なら問題ありませんが、旅費見合いとして2万円渡す(いわゆる御車代)みたいなことをしてしまうと、これも報酬に含まれます。
ということで話を戻すと、役員の労に報いるために報酬を支払うとなると、それが原因で会計担当役員が源泉徴収事務という追加の事務負担を担うという本末転倒、矛盾を惹起することになるのです。
この矛盾こそが、報酬制が孕む大きな実務上のリスクです。
と、ここまで読んでびっくりした人も多いと思いますが、個人的にはこの問題は 大したことはありません。
現実問題として、合計で数千円程度の支払いの源泉徴収をしていないからといって、税務署から指摘や指導を受けることはありえません。
現金での報酬は多くないとしても、その見合いとして図書カードを配るということはPTAではよくあることでしょう。また、セミナーの講師に講演料を支払うということも実際上は珍しくないでしょう。
じゃあ源泉徴収しているのかと言えば、現実問題としてあり得ないはずですし、それを問題にした税務署の職員もいないはずです。
余談になりますが、税務署の職員にはノルマが課されており、税金を沢山集めてきた人間が褒められることになっています。
PTAを突っついたところでせいぜい数千円が関の山です。PTAに取り立てに行くと言えば上司から大目玉を喰らうか、鼻で笑われるかのどちらかです。
余談のついでに、PTA主催で出店したお祭りの収益金については税金はかかりません。
詳しくはこちらの記事(PTAで町内会の夏祭りに参加して利益が出たら税金がかかりますか?)をご覧下さい。
報酬に対する源泉徴収に話を戻しますと、源泉徴収は税金の前払に過ぎず、最終的に受領者自身が確定申告ないし年末調整で課税関係を整理してもらえば済みます。
そしてPTA役員の報酬は雑所得でいいでしょうから、そうすると他の雑所得が沢山あるような例外的な場合を除き、確定申告も不要(雑所得は年間20万円以下であれば所得税の確定申告が不要)なので結果として、PTA役員報酬について税金はかかりません。
だから、源泉徴収してないからって実際上も問題にならないのです(ここ、自信100%かと言われるとちょっぴり怪しい部分もあるので、異論反論を受けつけます)。
ということで現実問題としては問題になることはないのですが、しかし、組織として「あえて税務上のルールを無視する」運用をすることは避けた方 が賢明というものです。
何事にもコンプライアンスが叫ばれる今の時代、推奨されるもので はありません。
税務署が取り立てに来ることは無いとしても、実際に起こり得るパターンとしては、税務署の職員が保護者の中にいた場合、源泉徴収を 問題にするかもしれません。
そうなれば言い訳が できなくなってしまいます。
法律上は完全に負けなので、やはり役員に報酬を出すというのは個人的に反対です。
さて、長々と源泉徴収の問題があるから報酬を払うべきではないという話をしてきましたが、実はそれは些末な話です。
次はもっと、圧倒的に重要な話をしましょう。
2. 心理的な問題:PTAの報酬が不公平感を醸成してしまう
源泉徴収以上に深刻な問題だと私が考えるもの。
それは、メンバー間の心理的な不和、不公平感です。
役員報酬としてお金が介在した 瞬間、それまでの「お互い様」というPTAのボランティア精神は、シビアな「労働 と対価」の論理に塗り替えられてしまいます。
「負担の差」を金額で埋めることはできない
報酬ゼロなら何も感じなかったのに、報酬を出した瞬間に、「どうしてあの人と私は同じ金額なの?」 という問題が噴出することになります。
一律支給が招く不満:
ほぼ毎日学校に来ているA子さんと、土曜日、たまに顔を出すだけのB男さん。一律の報酬にすれば負担の大きい人から不満が出ます。
負担に応じて金額を変えても無駄:
ならば、ということで役職で金額 に差をつければいいのかと言うとそういう問題でもありません。「私のほうが10倍以上働いてるのに、どうして2倍しかもらえないの?」ということになってしまうからです。
どのように金額を調整しようとも、この不公平感が 解消されることはありません。
誰もが納得する金額の配分はおおよそ考えられません。
役員の功労に報いようとした結果、役員同士が互いの活 動時間を監視し合う、ギスギスした空気を生み出しかねないのです。
有償のジレンマ:
「私はPTA役員として働いている」と いう主観的な負担感は、数千円の報酬では決して埋まりません。
むしろ、お金をもらうことで「割に合わない」という感覚が強調されてしまいます。
無償の時には「割に合わない」なんて思わなかったのに、いくらかのお金をもらった途端、逆に「こんな金額じゃやってられない」という気持ちが湧いて来るのですから不思議なものです。
あとは、PTAでは現金手渡しが主流だと思いますので、実際上、タイミングを合わせて会う必要があるというのもストレスです。
高校で委員をやった時は、委員報酬の500円を渡したいから懇親会に来てよ、と言われて閉口しました。
往復3時間以上、交通費1500円+参加費5000円で500円もらってもなぁ。。。
まあ、ともかく報酬の受け渡しは実際問題、かなり面倒な事務作業です。
3. 「報酬」に代わる、もっと良いお金の使い方とは?
PTAの報酬に関して、私からの提言が1つあります。
どうしても役員に報いたい、あるいは負担感を和らげたいのであれば、個人に 現金を配るよりも「活動中のホスピタリティ」にお金を使うほう が、不公平感も税務リスクも抑えられます。
会議に「軽食やティータイム」を用意する
私が考えているのは、個人に「1年間で◯円の報酬」を支払う代わりに、「毎回の会議にお菓子やお茶のような 軽食を用意する」という方法が有効ではないでしょうか。
心理的な効果:
お菓子があることで会議の雰囲気が和ら ぎ、コミュニケーションが円滑になります。これは「報酬(給与)」ではなく「福利 厚生」や「会議費」としての性質なので、上で述べた源泉徴収を気にする必要がありませ ん。
公平性の確保:
その場に参加している人だけが恩恵を受 けられるため、「あの人は手伝いに来ないのに、どうして私と同じなの?」という不満が出にくい仕組みです。
「もてなされている」感覚:
現金を直接渡されるより も、「お疲れ様」という気持ちが伝わりやすく、ボランティア組織としての温かみを 維持できます。
もっとも、これはこれで万全ではないことも承知です。
学校には来れないけどPC作業で貢献してる人がいる
お菓子を準備するのが大変
ラクな時だけ手伝いに来る人がいる
他の保護者から妬まれるのではないか
などなど、別の問題が生じることは重々分かってはいます。
だから、実際に取り入 れるかどうかは 判断をお任せします。
それでも、現金支給を検討するくらいなら、近所のスーパーでみんなで普段買わないようなお菓子を選んで配る、それくらいのがいいのではないかと考えます。
それがきっかけで参加者の距離がグッと縮まりますし、個人的にはこれが一番の方策だと 思っています。
4. 真の解決策:参加したくなるPTAに変革する
お菓子を配るのが一番と言ってしまったものの、さらに一層重要なことは「報酬を払わなければならないと思うほど大変な状況」を解決 することです。
つまり、個人に現金を配ることではなく、「活動そのものを スリム化する」こと、そして「(お菓子目当てじゃなくて)積極的に参加したくなるPTAに変える」こと です。
ICTツールの導入:
オンライン会議システム・PTA専用会計システ ムなどを導入し、集まる回数や拘束時間を物理的に減らす。
活動の断捨離:
「前例踏襲」で続いている不要な行事を 見直し、やり方も変えることで仕事量そのものを削減する。
アウトソーシング:
会報誌のデザインや会計の事務作業 など、負担の大きい業務は業者に委託することも検討する。
個人への報酬に予算を使うのではなく、「報酬がなくても『これくら いなら協力できる』と思える仕組み作り」に投資することが、不公平感を なくすための最も有効な処方箋となります。
まとめ:健全なPTA組織運営のために
PTAの魅力は、お金でつながる関係ではなく、子どもたちのために「できる人 が、できる時に」関わればよいという柔軟性にあります。
数千円の報酬のために、複雑な税務リスクを抱え、メンバー間に解消できない 不満を植え付けるのは、組織にとってマイナスでしかありません。
お金を配るより も、お菓子を囲んで楽しく活動し、不要な仕事を削ぎ落とす。
自発的に参加したくなる、行列のできるPTAこそが、PTA問題の究極解なのです。