PTAで非加入者を区別する 卒業記念品をあげる、あげないの議論が終わらない、本当の理由

卒業記念品を巡るジレンマ なぜこの議論は終わらないのか?

この記事の対象者

  • 「非加入者への記念品配布」を巡る役員会や総会での対立を解消したい方
  • 前例踏襲の記念品贈呈に疑問を感じている方

この記事でわかる事

  • この議論が平行線をたどる構造的理由
  • より高い視点から、公平性と平等を両立する具体的解決策




卒業シーズンになると、多くのPTAで必ず議論になるテーマがあります。

「PTAに 加入していない家庭の子どもにも、卒業記念品を配布すべきか」——

この問いは、全国 各地のPTAで繰り返される永遠の論争です。

総会や役員会での長時間議論、保護者間 の対立、SNS上の意見応酬はもはや珍しい光景ではありません。


この厄介な問題については、すでに法律・経済学という異なる視点から 2つの論考を掲げました。

法律上の課題
PTA非加入世帯の児童生徒を区別/差別するの は違法なのでしょうか?

経済学(公共財)的考察による解釈
PTA非加入の子どもに記念品は配るべき ?感情論ではなく、論理的に公平と持続性から考える

今回はさらに別の角度から考えてみます。

ここでは「なぜ、この論点はずっ と平行線なのか」を明快に解き明かすとともに、「そもそも卒業記念品とは何のためにあるのか」という根本的な問 いに立ち返り、新しい解決策を提案します。

PTA卒業記念品を巡る二極対立:平等派と区別派の主張と背景

卒業記念品問題で対立するPTAの様子を表現した画像。平等派と区別派の意見が  真っ向勝負になっている様子が伝わる。

一方では「卒業する子どもたちに差をつけるべきではない」という主張が、他方 では「会費を払っている加入者が不公平を感じる」「このままではPTA自体が成り立 たなくなる」という主張が平行線をたどります。

平等派(非加入者の子どもにも配布すべき派)の主張

「卒業という人生の節目に、子どもたちの間に差をつけるべきではない」

この主張の背景には以下の考え方があります:

  • 子どもの心理的影響への配慮:卒業式という人生の大切な 節目で、「PTAに加入してないから、あなたには記念品がありません」と告げることは、子どもの心に深い傷を 残す可能性があります。親の判断で子どもが不利益を被るべきではありません。
  • 現状の予算的余裕:会員数が多く、非加入者への配布でも 予算的に問題ないと判断されるケース。「数人分の記念品くらい問題ないだろう」という感覚で判断 されがちです。
  • 教育的配慮:学校は全ての子どもを平等に扱う場所である べきで、卒業式で目に見える形で差をつけることは教育理念に反するという考え方で す。

区別派(加入者と非加入者は区別すべき派)の主張

「会費を払っている人が損をすることになる」
「PTAに加入するのは馬鹿らしいとい う考えが広がればPTA自体が存続できなくなる」

この主張の背景には以下の懸念があります:

  • フリーライダー問題への警鐘:会費を払わずに同じサービ スを受けるのは不公平。この状況が続けば「加入しなくても良い」という認識が広が ります。
  • PTA組織の持続可能性への危機感:不公平感による加入率低 下→予算不足→活動縮小という悪循環への懸念。将来入学してくる子どもたちへの責任 も含まれます。
  • 任意団体としての原則:加入の自由と引き換えに、加入者 には何らかのメリットがあるべき。選択の結果が全く同じでは、選択自体の意味が失 われます。

対立の本質分析:そもそも議論が成り立つはずがない

「時間軸のずれ」に絶望するPTA会計担当。卒業生の平等とPTAの未来の間で板  挟みになる葛藤を表現。

両者の主張は表面的には「子どもの平等」と「会費負担の公平性」の対立に見え ますが、より深く見ると、それぞれが考えている①時間軸が違う、②対象が違うことに 気づきます。

  • 平等派の視点:「今、目の前で卒業する子どもたち」を重 視。「次の、卒業式という特別な日に一人も傷つかないこと」が最優先です。
  • 区別派の視点:「PTAという組織の将来」を見据え、「 PTAが存続して将来の子どもたちにもサービスを提供できること」を重視します。

前者は「現在の卒業生」について主張しており、後者は「将来のPTA組織と未来の子どもたち」について論じているのです。

これが両者の議論が平行線をたどる最大の理由です。

前者は「現在の卒業生」、後者は「将来のPTA組織」。

実は両者は異なる次元の話をしているので、議論が噛み合わないのです。

フリーライダー問題とPTA持続可能性:短期的平等が招く長期的不平等のメカニ ズム

「フリーライダー問題」によりPTA崩壊の危機に陥った会計さんが、崩壊を悟っ  た表情で絶望する様子。#PTA #会計

「今年だけなら」が積み重なる危険性

「非加入者の子どもにも卒業記念品を配布する」という短期的平等を重視する判 断は、以下のようなプロセスで結果的に長期的不平等を生み出します:

  1. 認識の拡散:「PTAに加入しなくても卒業記念品はもらえる 」「面倒な役員を引き受ける必要がない」という認識が口コミやSNSで広がります。
  2. 合理的選択の増加:「会費を払わなくても同じものが得ら れるなら加入しない」という経済的合理性に基づく選択が増えます。
  3. 加入率の低下:新入生保護者を中心に加入率が徐々に減少 していきます。
  4. 予算の縮小:会費収入減少によりPTA活動の質・量が低下し ます。
  5. 悪循環の発生:活動の質低下が「会費を払う価値がない」 という認識をさらに広げ、加入率がさらに低下します。

この変化は年単位の緩やかなものであるため、「今年は問題ない」という認識が数年続いた後、いずれ「予算が足りない」「役員のなり手がいない」という形で表面化しま す。

しかし、その時には判断を下した本人は既にPTAを去っていることでしょう。

私は、平等派の主張問題の先送りであり、かつ、問題が表面化した時には自分はPTAを去っているという非常に無責任な意見だと考えています。

加入者の不満増大と組織崩壊への道

加入者の心理的不公平感は以下のような悪影響をもたらします:

  • 既存加入者の脱退:「自分の子の卒業記念品のために会費 を払っているのに、非加入者にも配るなら意味がない」と感じる保護者の増加
  • 役員モチベーション低下:「なぜ自分たちだけが苦労して 記念品を選んでいるのか」という疑問が活動意欲を削ぐ
  • 加入者内部の分断:「全員に配るべき」派と「区別すべき 」派の対立が生じる
  • 説明責任の困難:「なぜ会費を払う必要があるのか」への 明確な説明が困難になる

特に注目すべきは、この問題が単なる予算問題ではなく「公平性」という価値観 に関わる心理的問題である点です。数千円の記念品でも「原則的におかしい」と感じ られると、大きな反発を生み出します。

最終的なPTA崩壊と全児童への影響

フリーライダー問題に目をつぶり、加入者不満が拡大し続けると、PTA組織そのものが崩壊する リスクがあります。

皮肉なことに、「目の前の卒業生への平等」を追求した結果、将 来の子どもたちが受けられるはずだったサービスや支援を失わせるというパラドック スが生じます。

これが「短期的平等が長期的不平等を生む」メカニズムです。

卒業記念品の存在意義を問い直し、「体験型」卒業記念へのシフトを提言

卒業記念品のあり方に衝撃を受けたPTAマニアの様子。問題解決への情熱と少し  の絶望が入り混じっている。

ここから、新たな提言を進めていきましょう。
まず、これまでの話を整理します。

卒業記念品が公平性問題を顕在化させる4つの特性


卒業記念品が公平性問題を最も鮮明にする理由は、以下の特性にあります:

  • 有形性:「誰がもらったか、もらっていないか」が目に見 えて明確になり、差異が可視化されやすい。卒業式という公の場で配られることで、 より顕著になります。
  • 個人的便益:受け取った個人が直接的便益を得るもので、 「誰が費用を負担すべきか」が明確に問題になります。
  • 排除可能性:技術的に特定の人々にのみ配布し、他を排除 することが可能。この特性があるからこそ「加入者の子どもだけに配るか」という選 択肢と議論が生じます。
  • 感情的インパクト:卒業という人生の節目における記念品 は、通常の物品配布以上に感情的な意味を持ちます。

卒業記念品の存在意義を再考

PTAの本来の目的は「保護者と教師が協力して子どもたちの健全な成長と教育環境 の向上を図ること」です。結論では大きく対立するのに、この点は平等派も区別派も異論がありません。

では、この目的に照らして、個別の卒業記念品は本当に不可欠で しょうか?

実際、多くの卒業記念品(文具、写真立て、印鑑など)は歴史的慣習として続い ており、その教育的意義や必要性が十分に検討されていないケースが多いのではない でしょうか。

要するに「何かをあげる」こと自体が目的になってしまっている、ということです。

今や、それぞれ価値観がバラバラで、子供たちが全員が共通で欲しい・もらって喜ぶものなんて存在 しないと思うのです。

小学校の卒業記念品を10年後も大事に持っている、そんな例は数少ないのではな いかと思うのです(これは自分の子どもを見ていて思うことなので、一般化してよいかは疑問の余地はありますが)。

もし、卒業記念品の多くがいずれゴミとして捨てられ、使われずに終わるなら、なぜ私たちはこの慣習を続 け、そのために対立しているのでしょうか?

弁証法からの提言:「体験型」の卒業記念

スタート地点は同じなのに、意見が対立する。この場面では弁証法が有効です。

弁証法なんていう言葉に驚く必要はありません。要するに、より高い次元から双方が納得する結論を目指す思考だと思ってください。


弁証法から考えた、卒業記念品を巡る対立を根本から解決し、かつ子どもたちにとってより価値のあ るものを提供する方法——

それは「モノ」から「体験」へのシフトです。

  • 排除の問題が生じない:全校生徒(ないし全卒業生)が参加する体験型イベン トは、誰が加入者で誰が非加入者かという区別が不要になります。学校全体で共有さ れる体験となります。
  • 記憶に残る:物品は失くしたり壊れたりしますが、体験の 記憶は一生残ります。10年後、20年後に思い出すのは、もらった文房具ではなく、み んなで過ごした特別な時間です。
  • 教育的価値が高い:子供同士、場合によっては保護者・教 員を巻き込んだ共同作業や特別な活動を通じて、協調性、創造性、思い出の共有な ど、物品では得られない価値を提供できます。
  • 学校への貢献:完成した作品や植樹などは学校に残り、後輩たちにも価値を提供し続けます。
  • 対立の解消:「誰に配るか・配らないか」という平等派と区別派の議論そのものが不要になります。

体験型卒業記念の具体的アイデア

実例やAIに相談して出てきた具体例を挙げておきましょう。

創作系

  • 卒業生全員で壁面アートを制作し、校内に永久展示
  • モザイクアート:一人一枚のタイルに絵を描き、組み合わせて大きな作品に
  • タイムカプセル製作:20年後に開封する共同プロジェクト

自然・環境系

  • 卒業記念植樹:校庭や近隣公園に桜などのシンボルツリーを植える
  • 学校菜園・花壇の整備:在校生が引き継いで育てる
  • ビオトープ作り:生態系学習の場を残す

施設・設備系

  • 図書室の蔵書充実:卒業生の名前入りプレートとともに寄贈
  • ベンチや遊具の設置:「○○年度卒業生製作」のプレート付き
  • 校内案内板や掲示板の製作

イベント・活動系

  • 特別授業の招聘:プロのアーティスト、スポーツ選手、研究者などを招いた特 別授業
  • 卒業記念コンサートや発表会:全員で作り上げる特別な舞台
  • 地域貢献活動:清掃活動、福祉施設訪問など

記録・記憶系

  • 卒業アルバムのデジタル化と共有(個人配布ではなく共有システム)
  • 卒業記念動画の制作:全員が参加する思い出のムービー
  • 学校の歴史記録プロジェクト:インタビュー集や写真集の作成

持続可能な平等の実現:段階的移行と建設的対話による解決策

段階的な移行プラン:慣習変更への配慮

長年続いてきた慣習を急に変えることには抵抗があるかもしれません。そこで段階的な 移行を提案します:

  1. 今年度:従来の記念品配布を継続しつつ、「来年度からは 新しい方式を検討している」ことを保護者に予告
  2. 次年度:記念品と体験型の両方を実施(予算の半分ずつな ど)
  3. その次の年度:完全に体験型へ移行

また、保護者や児童・生徒の意見を聞くアンケートを実施し、どのような体験が望まれているかを把握することも重要です。

建設的対話の鍵:短期的視点と長期的視点の両立

対立を超える共通理解
「平等派」と「区別派」の対立は、実は両者とも「子どもたちのため」という同じ ゴールを目指しています。違うのは時間軸と着眼点だけです。

建設的な対話のために必要な認識

  • 短期的視点の重要性を認める:目の前の卒業生の気持ちは確かに大切です。誰 も子どもを傷つけたいわけではありません。
  • 長期的視点の重要性を認める:将来の子どもたちのためにPTAが存続すること も同様に大切です。
  • 二項対立を超える:「配るか・配らないか」という選択肢しかないと思い込まず、より高い視座から第三の道を模索することは可能です。これが先に述べた弁証法的思考です。

共通目標への立ち返りと持続可能な平等

対話が平行線をたどるとき、PTAの根本的目的「子どもたちの健全な成長と教育環 境の向上」に立ち返ることが有効です:

  • 「卒業記念品を誰に配るか」ではなく「卒業という節目に子どもたちに何を残 したいのか」という本質的問いへ転換
  • 「子どもたちのために何が最善か」という共通の問いかけから対話を始める
  • 「モノ」に縛られず、より創造的な解決策を模索する

卒業記念品を巡る論争は、繰り返し述べている通り、表面的には「配るか・配らないか」という問題に見え ますが、本質的には「一時的な平等」と「持続可能な平等」のどちらを選ぶかという 問いです。

しかし、「モノから体験へ」という転換によって、この二項対立そのものを超え ることができます。全ての子どもたちが参加できる体験型の卒業記念は、

  • 今の卒業生全員に平等に価値を提供し、
  • 加入・非加入の区別という対立を生まず、
  • PTAの持続可能性を脅かさず、
  • より深い教育的価値を提供します。

重要なのは「対立から協働へ、批判から共創へ」と思考をシフトさせることで す。

短期的視点と長期的視点の両立、共通目標への立ち返り、そして固定観念にとら われない柔軟な発想——

これらを持ちながら対話を続けることで、より多くの人が納得 できる解決策が見出されます。

子どもたちの未来のために、持続可能で、本当に価値のあるPTA活動の新たな形を 共に創り上げていきましょう。

10年後、20年後、卒業生たちが懐かしく思い出すの は、もらった文房具ではなく、みんなで作り上げた特別な体験であるはずなのです。