PTA非加入世帯の児童生徒への対応:法的義務と区別/差別の是非を徹底解説
この記事の対象者
- 非加入世帯への対応に悩むPTA役員
- 加入・非加入による「区別」の是非を法的・論理的に整理したい方
この記事でわかる事
- 「全児童平等」という主張の法的妥当性と、裁判例
- 問題を解決するための提言
PTA加入・非加入による児童・生徒の区別は問題なのか
問題の背景と現実
PTAの加入が任意だという考えが広まり、保護者の中にはPTA会員にならない人が 出てきます。年々、その数は増えているようです。
この状況下で、PTA非加入世帯の児童生徒がPTA活動による利益を享受することに対し、PTA加入世帯の保護者から不満の声が上がることがあります。
そのような意向を受けて、PTAが非加入世帯の児童生徒を加入世帯の児童生徒と区別し(「差別」という強い言葉を使う人がいますが上下に分けている訳ではないないので「屈別」がいいと考えます)、異なる取扱いをし、トラブルとなる事例が報告されています。
具体的には以下のような対応が あります:
- 卒業式の記念品を非加入世帯の児童生徒に提供しない
- PTA会員が見守る登校班に非加入世帯の児童生徒を参加させない
加入世帯側の心理的背景
このような区別の背景には、非加入世帯の保護者は何の負担もしていない(PTA会 費を払わず、役職にも就いていない)にもかかわらず、その子どもが他の加入世帯の 保護者の負担によって成り立っているPTA活動の利益を享受すること、いわゆる「フ リーライダー」であることが許せないという加入世帯側の素朴な感情があります。
学説による法的検討
某学説:憲法第26条からの検討
ある学者は、PTAが加入世帯の児童生徒と非加入世帯の児童生徒を区別し、加入世帯の 児童生徒だけが利益を享受できるようにすることを憲法第26条との関係で否定的に捉 える可能性を示唆しています。
この人はPTA活動を「個々の保護者が自己の養育する児童生徒のみならず、保護者一 般としての立場から、当該学校に在籍する児童生徒全般に対して、いわゆる『大人』 からの配慮や支援を行うことを目的とした、公共的ないし社会的な活動」と位置づけ ています。
この見方に基づけば、「憲法26条に規定された、子らに教育を受けさせる保護者 としての義務の具体的内容として、保護者が任意に団体を構成して相互の協力により 児童生徒の成長に貢献するための活動を行うもの」がPTA活動であり、PTAが非会員世 帯の児童生徒を排除することはできないとの考え方が導かれるとしています。
この説への批判的検討
しかし、PTAが非加入世帯の児童生徒を排除することができないことの根拠を憲法 第26条第2項に求めるのは、無理があります。
なぜなら、憲法第26条第 2項は自らが養育する子女を対象にした保護者の義務を定めているのであって、自ら が養育する子女以外の子女を対象にした保護者の義務を定めているわけではないから です。
要するに、「どうして会費も払わない、よそのお宅の子供の面倒まで見なきゃ いけないのよ!」という訳です。
どうですか?至極真っ当な意見でしょう。
また、PTAが会員のためだけに活動するなら、教室を借りることはできない、PTA室などを使っている以上、全児童・生徒に等しく応対すべきであるという意見を見たことがありますが、これは全くの誤りです。
法的根拠などなく、ただただ感情論だけのクルクルパーです。
PTAが完全に私的な目的を有する団体であるとしても、学校施設の利用に関する法令により、PTAが学校内において活動を行うことは法的に全く問題がありません。
誰でも知っていると思いますが、特定の野球チームや町内会が学校の校庭を使うようなことは珍しくありません。
この場合に、学校のグラウンドを使うんだから、チームに入っていない子供にも同じように野球を教えろ、とでもいうのでしょうか。
どこをどう解釈したら、「全児童・生徒に等しく応対しない組織には施設を使わせてはいけない」という話になるのか、そのバカっぷりには驚きを通り越して呆れる他ありません。
地方自治法第238条の4 第7項(行政財産の目的外使用の許可)
要旨: 地方公共団体は、条例の定めるところにより、行政財産(学校の敷地・校舎等を含む)の本来の用途を妨げない限度で、目的外使用を許可できる。
許可の可否・条件(時間帯、区画、禁止行為、原状回復、損害賠償、使用料など)は、設置団体の条例・規則で具体化されます。
学校施設の住民開放は、この「行政財産の目的外使用許可」を根拠に運用されるのが通例です(教育上の支障がないことが前提)。
学校教育法 第137条(学校施設の利用に関する規定)
要旨: 学校の設置者は、学校教育に支障のない範囲で、学校の施設を地域住民等に利用させることができる。
具体的な利用対象・時間帯・手続・費用などは、設置者(多くは市町村や都道府県)の条例・要綱・実施要領で定められます。
裁判例による実務的判断
コサージュ配布事件の概要
PTAが非加入世帯の児童生徒と加入世帯の児童生徒を区別し、異なる取扱いをする ことの違法性が実質的な争点となった有名な事件として、コサージュ配布事件があり ます。
本件において、原告は生徒の保護者であり、当初保護者会に入会していました が、活動内容に関する意見の相違から同会を退会しました。
その後、修了式に際して 保護者会が会員の子女にのみコサージュ及び一輪花を交付し、会員ではなかった原告 の子女には交付しなかったため(原告は実費支払いを求めたがPTAが拒否)、原告が精神的苦痛を理由に損害賠償請求訴訟を提起 しました。
大阪地裁堺支部の判断
大阪地裁堺支部は、まず違法性に関する判断枠組みとして、被侵害利益が不明確 であることを前提に、「人格権ないし人格的利益については、例えば行為態様が悪 質、悪辣であるなど、当該行為を抑止すべく作為義務ないし不作為義務を損害賠償を もって強制することが被侵害利益の不明確性にもかかわらず正当化されるとき」に不法行為法上の違法な侵害と評価されると指摘しました。
そのうえで、以下の理由により原告の請求を棄却しました:
- 制約を正当化する法令上の根拠がない(非加入者児童にも同じ扱いを求める、実費購入に応じるべき)
- 不作為の行為態様が悪質、悪辣であるなどといった事情もみられない
- 法感情上も制約を正当化する根拠を見出しがたい
- 他人の子女の修了式を祝うことが自発的にされるならともかく、損害賠償をもっ て強制されるべき事柄とは考えがたい
最後の文は難しく聞こえますが、要するに「他人の子供のお祝いをしなかったから、 PTAは損害賠償しろ、なんておかしい」という考えです。
きわめて当然の話をしているとわかるはずです。
この判決では、結論として「PTAは悪くない」と判断し たのです。
もっとも、この判決はPTAは任意団体であり、その加入非加入は自由である旨を明示したものとして特 に有名です。
判決への批判的見解
反対の教育学者は「保護者会からのコサージュ等交付は学校機関的な活動内容で あると考えられることからそこに差異が生じることは原則的には許容しがたく、可能 な限りの平等な取り扱いをする義務が学校やPTAにはあると思われる」と述べ、本判 決に批判的な立場をとっています。
しかし、法的観点からみた場合、そのような法的義務をどのような根拠から導き 出せるのかという点について、十分な反論は提示されていません。
結局、平等に扱ってあげないと可哀そうだ、という感情論が先行してお り、法的主張としてはまったく根拠不十分であると評価されるべきでしょう。
公益社団法人としての義務論
別の法的構成として、PTAの全国組織である日本PTA連絡協議会(日P)が公益社団 法人であることに着目して、関係法令の解釈から義務を導き出す見方があります。
公益社団法人としての認定を受けるためには「不特定かつ多数の者の利益の増進 に寄与する」ことを主たる目的とする必要があり、受益の機会の公開性が要求されま す。
日Pが公益社団法人としての認定を受けているということは、各単位PTAも「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与する」ことを主たる目的とする必要があるのだから、児童生徒に等しく受益する義務がある、という主張です。
ひと言でいうと、日Pが公益社団法人なんだから、各単位PTAも公益、つまり全児童のために行動すべき、という主張です。
すでに違和感を持つ人も少なからずいるでしょうが、法律的に反論しておくと、以下の理由により、この解釈は適切ではないと考えられます:
- 日Pが公益社団法人として認定されているのは確かだが、単位PTA自体は公益認定 を受けているわけではない
- 同様のPTA団体である全国PTA連絡協議会(全P)は一般社団法人であり、公益社団法人ではない。日Pか全Pかで法的差異が生じるのは適切ではない
結論:現行法における取扱い
法的義務の存在について
以上の検討から、現在のところ、非加入世帯の児童生徒と加入世帯の児童生徒を 区別してはならないという法的義務の存在を肯定することはできないものと解されま す。
非加入世帯の児童生徒と加入世帯の児童生徒を区別するのは法律違反だという意見を目にする機会が少なからずありますが、これは感情論と法的論理を混同していま す。
あるいは自分の意見を正当化するために都合よく法律(っぽい屁理屈)を持ち出しているにすぎま せん。
さきほどから何度かでていますが、「エリートぶってるお馬鹿」と断じておきます。
ということで、仮に非加入世帯の児童生徒を区別し、加入世帯の児童生徒に対する対応と異なる対応をPTAがとったとしても、そのこと自体によって当該対応が直ち に違法と評価されることは基本的にはありません。
違法となる場合の条件
ただし、PTAによる対応が法に抵触するような形で行われれば、当該行為は違法と なります。区別すること自体は違法ではないが、その方法や程度によっては法的問題 が生じる可能性はゼロではありません。
現実的には考えにくいですが、明らかに悪質 な嫌がらせとか子どもの人格を傷つけるような過度なものであったりする場合には、 PTAの行為が違法と判断される余地があります
実費徴収制度の評価
PTA非加入世帯の児童生徒もPTAからの利益を享受できるようにするため、PTAが非加入世帯から実費を徴収している事例があります。私もこの考えを主張しています。
ただ、このやり方は、実務的には、非加入者にはそもそも案内する手段がないとか、お金のやり取りが面倒とかの問題が依然残っています。
しかしそれでも、
公平性の担保:
会員の「会費を払っているのに不公平だ」という感情 (フリーライダーへの不満)を解消できる。
排除してない:
実費を払えば非会員の子どもも利益を享受できるた め、子どもが傷つくことを防げる。
法的妥当性:
実費徴収は違法ではなく、むしろ分け隔てなく扱うた めの合理的な仕組みです。
ということで、実費徴収の制度は加入世帯の児童生徒と非加入世帯の児童生徒に等しく機会を与えているのであり、積極的に評価されるべきものです。